腰 痛 症

腰痛
T.筋々膜性腰痛症

 

ポイント!

筋々膜性(姿勢性)腰痛症の原因は、

腰の筋肉の疲労によって起こる

 

腰痛には、実際のところ様々な原因があります。時には内臓の病気の痛みが腰にひろがっている場合、あるいは癌が腰の骨に転移して痛みを起こしている場合などもありますので、腰が痛んだ時にはやはり精密検査がかかせません。検査もせずに漫然と治療だけを行っていると、病気によっては、手遅れになることもあり注意が必要です。

  腰痛の原因の中で、実際のところ最も多く見られるものが姿勢性腰痛症(別名、筋性腰痛症、または筋々膜性腰痛症)と言われるものです。

  腰の筋肉の疲労により生じるもので、頸部における肩こりとよく似た状態と考えられています。

すなわち、腰椎を支える傍脊椎筋(ぼうせきついきん、主に腰背筋をさす)の筋肉に疲労が起こって、それが蓄積した結果、生じた腰の痛みと言えます。

  例えば、腕を長時間持上げていると、疲れのため腕が痛くなってきます。それと同じように腰の筋肉に無理がかかって、その緊張が続き、筋肉に疲れが貯まってくると痛みが出てくるのです。

しかし、腰が痛いからと医者に行って、「これは筋性腰痛症、つまり腰の筋肉の疲労です」と言われても、例えば長く歩いたあとに足が痛くなったとか、あるいは身体を動かす仕事をして体のアチコチが痛くなったとかと言うことなら理解しやすいのですが、実際、運動らしい運動もしていないのに腰の筋肉が疲労するのはなぜか。あるいは疲労するほども運動していないのになぜに腰が痛くなるのか。またある人では、寝て安静にしていただけなのに腰が痛みだしたが、これが筋疲労の結果であると言われても、たいていの方にはなかなか理解しにくいようです。

 

ポイント!

緊張状態が続き、固くなった筋肉で

は、筋肉内の血流が悪くなって、疲労

しやすくなり、そのため痛みを生じる

ことになる

 

立っていようが、寝ていようが、座っていようが、人間が活動している限り腰の筋肉は、それなりに常に緊張しており、無理な姿勢が続いたりした時には、それがひどくなります。

筋肉はリズミカルに収縮(固くなる)や、弛緩(やわらかくなる)を繰り返している状態では、それが筋肉の中の血液を循環させるポンプの役割をはたすことになります。

  そして、それが筋肉内に滞った疲労物質をおし流す作用をはたすのです。つまり筋肉内の血流が順調であると疲労しにくく、また、たとえ疲労しても、その血流の効果で疲労から早く回復することになります。

  つまりおなじ姿勢を長く続けていると、特に背骨を支えている腰部の筋肉は常時、緊張し固くなったままとなります。

このような緊張が持続した状態では、リズミカルな収縮、弛緩の運動がないことから血流も悪くなり、筋肉内に老廃物、疲労物質が貯まって、筋肉は疲労しやすくなります。

その結果、腰の痛みが出てくるのです。また、いったん疲労した筋肉は収縮、弛緩の筋肉の活動が低下し、固くこわばったままとなって、そのため筋肉内の血管が圧迫され循環機能(血液の流れのこと)は急速に低下します。そして、疲労の回復が遅れる結果、さらに筋肉の緊張が強くなり、そのため筋肉内の血流が悪くなって行くと言う悪循環をしばしば繰り返して慢性化して行くことになります。

 その証拠に、腰痛は同じ姿勢を続けていると強くなり、一方、運動をすると軽くなると言う事実。あるいは腰が痛くなった時に、何回か腰の屈伸をすると痛みが谷和らぐ。また痛いところを指圧してもらったり、叩いてもらうと、あるいは入浴したり、腰に温湿布をすると痛みが軽くなると言うのは、それによって筋肉内の血流が改善されるため疲労も痛みも軽くなると言う分けです。

腰痛の理解のためには、まず腰の支柱である骨(腰椎)とその周囲をささえている筋肉の構造について理解して頂く必要があります。

脊椎(せきつい)とは骨を指す言葉で、上の方から頸椎(けいつい、くびの部分)、胸椎(きょうつい、背中の部分)、腰椎(ようつい、腰の部分)そして仙椎(せんつい、骨盤の中央の骨)に分かれます。この中で腰痛に関係があるのは、腰椎と仙椎です。

 

ポイント!

腰椎は5つの骨が縦につながって出来

ており、その下に骨盤の一部である仙

椎がある

 

一般に腰部の骨と言えば、5つの骨が縦につながった腰椎と、その下の骨盤をさします。なお腰椎は骨盤の中央にある仙椎に連なっています。

  さて、人間がサルから進化したと言う事実は、よく知られています。ところでサルの歩いているところを観察しますと、訓練を受けたチンパンジー以外はけっして2本足では歩かず、四つ足歩行であることに気付きます。サルは人間に進化する途上で2本足歩行に変わったのですが、この間、サルの時代には下半身を支えるだけで良かった腰仙部は突然、上半身すべての重さを支えねばならないと言う、腰にとっては思ってもみなかったような、大きな負担を背負うことになったのです。

 つまり、この急激な変化によりヒトは「腰痛」と言う宿命を持つことになったのです。

 

ポイント!

腰椎と仙椎 縦につながって、その

中に脊椎管と呼ばれる縦のトンネルを

形成しており、その中を脊髄や、馬尾

神経が通っている。

  

腰椎と仙椎の中には脊髄(せきずい)や、脊髄から出て足に行く神経が通っている脊椎管(せきついかん)と言う管(くだ)があります。脊髄には脳から手足に行く命令や、手足の感覚(痛い、熱い、冷たいなど)を脳に伝える神経が通っており、その脊髄から出て足に行く神経のうち、脊椎管の中を走っている部分のことを馬尾(ばび)神経と言います。

足に行く神経は、脊椎管から外に出てからは、大きくふたつの神経に分かれます。

ひとつは坐骨(ざこつ)神経、もうひとつが大腿(だいたい)神経と呼ばれます。

この馬尾神経に病気がおよぶと(例えば神経が椎間板のヘルニアなどで圧迫されると)、いわゆる坐骨神経痛大腿神経痛が起こることになります。

正常な腰椎を横からレントゲンで見ますと、誰でも後に反り返ったカーブ状になっています。このような中央が前に飛出したカーブ(曲り)のことを前彎(ぜんわん)この腰椎の前彎が強くなると腰痛がひどくなると言う関係にあることが分かっています。

 

ポイント!

腰椎は正常では、前方に凸の後に反

り返ったカーブ状となっており、こ

のカーブが強くなると腰痛がひどく

なる(腰椎の前彎)。  

 

ポイント!

骨盤の前傾が強くなると腰椎の前彎が

強くなり、しいては腰痛がひどくなる

  

骨盤は横から見ると、正常では前に40度(下向きに)傾いており、このように前に傾いていることを前傾(ぜんけい)と言います。腰椎の前彎と、骨盤の前傾の程度とは腰の痛みに密接に関連しており、腰痛の対策をたてる上でとても重要です。

ポイント!

骨盤の前傾が強いほど、腰椎の前彎は

強くなると言う関係にある

 

骨盤の上にある腰椎は、いわば斜(ななめ)の土台の上に立っている状態であり、この傾きが強くなるほど、その上にある上半身を垂直(まっすぐ)に保つためには、腰を後に反り返らせる、すなわち腰椎の前彎が強くならざるを得ないと言う関係にあります。

 つまり骨盤の前傾が強くなると、腰椎の前彎が強くなり、腰椎の前彎が強くなると腰痛がひどくなると言う関係になっているのです。

 なおハイヒールをはくと、骨盤の前傾が強くなるため、腰椎の前彎が強くなり腰痛を生じることになります。そこで、腰痛のある方では、ハイヒールをやめてカカトの低いくつをはくことをお勧めします。

 

ポイント!

骨盤の前傾が強いくなると、人の腰部

は疲労しやすくなる

 

骨盤の前傾が強くなりますと、腰椎の前彎が強くなって腰痛がひどくなると言うこと以外に、骨盤の前傾が強くなること自体によっても腰部の疲労をきたすことになります。

 すなわち、もともと骨盤は前傾していることから、この上にある腰椎には常に前方にスベリだそうとする力が働いています。

そこで、これを引っ張って食い止めるため腰の靱帯(じんたい)、筋肉、椎間板(ついかんばん)、椎間関節(ついかんかんせつ)には、常に大きな負担がかかっています。特に筋肉には持続的な緊張が起こっていますので、骨盤の前傾が強くなると、ささえるのに大きな力が必要となり、筋肉の疲労が大きくなります。

 

ポイント!

腹筋は腰椎への負担を減じるのに役

立っている

 

お腹の筋肉すなわち腹筋が腰痛と関係があると言うのは、理解しにくいかもしれません。

腹筋(ふっきん)は、それが緊張することによりお腹の中、すなわち腹腔(ふっくう)内の圧力(これを腹圧と言います)を高く保つ作用を果たしています。そして、この腹圧は上半身の重さなど腰にかかる負担を腰椎と分かち合うことによって、腰椎への負担を軽くする役目を果たしているのです。

 すなわち上半身が腹腔と言う大きな風せんの上に乗っているのと同じような形になっているのです。ところが腹筋の力が弱くなりますと、腹圧が減少し、その結果、上半身の重さを、お腹で支える力が減って腰椎にかかる負担は増えることになります。

 

ポイント!

腹筋の力が弱くなると、腹圧が減少

し、腰椎にかかる負担が増える

 

もう少し説明しますと、例えば、サーカスでピエロが大きな風船の上に乗っているところを想像してみて下さい。ピエロが上半身で、風船が腹腔にあたります。まず、堅く空気が入ったパンパンにはった風船(強い腹筋でかこまれた腹圧の高い腹腔の場合)の上では、ピエロは安定しており、楽に立っていられるでしょう。一方、空気の抜けた軟らかい風船(腹筋の弱いフニャフニャの腹筋)の上ではピエロは不安定でまともに立っておれません。

すなわち、上半身は安定せず、その結果、腰背筋に大きな負担がかかることになるのです。

  ある学者によりますと、前かがみで物を持ち上げる時に腰椎にかかる負担は、十分な腹圧がある場合では、腹圧のない場合に比べて約30%も少なくてすむと述べています。

すなわち腹筋が弱くなると腹圧が低下して腰椎にかかる負担が大きくなり、これがしばしば腰痛の原因となってくるのです。

その証拠に腰にコルセットをはめると腰痛が軽くなりますが、このコルセットの作用のひとつが腹圧を上げて腰椎にかかる負担を軽くすることにあるのです。

  また、重量上げの選手が腰に太いベルトを巻いている理由も、腹圧を上げて重いバーベルを持ち上げる際に、腰に負担がかからないようにするためです。

 

ポイント!

運動不足が続くと、腹筋の筋力は急速

に低下する。腹筋の筋力が弱いと、腰

背筋に無理がかかって腰痛を生じやす

くなる

 

そこで腹筋と背筋のバランスを考えると腹筋は浅く広く、背筋は厚く太いのです。そのため腰椎を支える筋肉のうち、腹部の筋(いわゆる腹筋)の筋力は腰部の筋(腰背筋、ようはいきん、腰の後にある筋肉)の筋力に比べて正常でも弱いのですが、筋肉の疲労は筋肉の持久力(持ちこたえることの出来る力)が弱いほど早く起こります。

  そこで腹部の筋肉の方が常に早く疲労してしまい、その結果、身体を支える仕事が腰背筋(脊柱起立筋、せきちゅうきりつきん)の方に大きく頼らざるを得なくなります。

  こう言った状態が長く続きますと、腰背筋の過労状態を招き腰痛の原因となるのです。

 

ポイント!

腹筋と背筋の筋力低下は40歳以上

の女性で著明であり腹筋においてよ

り著明である

 

  腰部の筋肉の疲労を防止し、腰痛を予防するため、特に、中年以降の女性では、腹部の筋力を強化することが大切です。特に腹筋の筋力は運動不足が続くと急激に低下しますので、そうならないように普段から鍛えておく心構えが必要です。中腰は腰に大きな負担がかかり、腰痛の原因となります。

 

ポイント!

中腰の姿勢は腰背筋に非常に大きな力

がかかり、腰痛の原因となる

  

中腰で重いものを持ち上げる時の力学的なことを考えてみましょう。てんびん棒の両端に重さがかかっているところを想像して下さい。物を持ち上げる際には、腰椎の椎間板の部分が支点となって、手や腕、胴がテコの前方の腕(長い腕)となり、そこに重量物や上半身の重さがかかることになります。一方、椎間板の中心から後にある棘突起(きょくとっき)までの長さが後方の短い腕となり、重量物を持ち上げる際には、この短い腕を腰背筋が引っ張ることになります。

ある研究者によりますと、この長い腕と短い腕の比率は15:1となるそうです。

 この場合、例えば前方の腕で50キログラムの重さの物体を持ち上げようとしますと、テコの原理から、腰背筋が後方の腕である棘突起を50キログラムの15倍の750キログラムの力で引っ張る必要があるのです。つまり腰背筋から腰椎までの距離は短く、すなわちテコの柄としての距離が短いため重量物を持ち上げる際に、腰背筋には、その重量よりはるかに大きな力がかかることになり、疲労し易くなって腰痛の原因となるわけです。

つまり、物を持ち上げる際には、決して、膝を伸ばしたまま腰を曲げて上半身を前に倒すような姿勢から持ち上げてはいけません。

このようなやり方は腰に大きな負担となって、しばしばギックリ腰の原因となるからです。

まず膝を曲げて腰を落とし、腰はできるだけ地面に真っ直ぐのまま、荷物を胴に近づけて、しゃがみ込んだ位置から膝で立ち上がるようにして物を持ち上げることが大切です。

 

ポイント!

骨盤の前傾の程度が少なくなり(

)、腰背筋にストレスがかかること

によって起こる腰痛もある

 

  骨盤が前に傾く程度が強くなると腰椎の前彎は強くなり、一般に腰椎の前彎が強くなると腰痛がひどくなることは、先に説明しましたが、骨盤は横から見ると、正常では前に40度(下向きに)傾いていることを前傾(ぜんけい)と言います。

一方、逆に骨盤の前傾の程度が少なくなり(これを後傾とも言います)、それが原因で腰背筋に無理なストレスがかかることによって起こる腰痛もあります。この場合、その原因のほとんどは、ハムスリング(大腿屈筋、ふとももから膝にかけての後の筋肉)と呼ばれる膝を曲げ、股関節を伸展する筋肉群が拘縮(固くなって縮むこと)のために短くなったために起こります。すなわち腰椎の前彎が消失し平背の状態となってしまう分けです。

 つまり、これらのハムストリングの筋肉群が骨盤を引っ張って、正常より後側に傾ける方向に作用するため、骨盤が後傾となります。その結果、背中側で骨盤の後についている腰背筋が無理に引っ張られることになって、この腰背筋にストレス性、筋緊張性の腰痛を引き起こすことになるのです。

この場合に行う腰痛体操としては、ハムストリングのストレッチングが有効です。具体的には、まず足を肩巾より少し広めに開いて立ちます。次に膝を折らないようにして、股関節の部分で上半身を屈曲、すなわち前に倒すのです。

  なお、この時、猫背にならないように、上半身をむしろ反らすようにして、つまりおヘソを突出するようにします。大腿後面のハムストリングが有効にストレッチ、すなわち引き伸ばされますと大腿後面に痛みを感じるでしょう。この体操は、お風呂上がりで体の筋肉がほぐれた時に15〜30分行うのが良く、少し痛みを感じるぐらいにストレッチ体操をされることをお勧めします。